(セットリストなどネタバレあるのでご注意ください)

the HIATUSの「A World Of Pandemonium Tour 2011-2012」、行ってきました。

theHIATUS20120124zepptokyo

これまで千葉などではすでに公演があったけれど、都内ではこの日のZepp Tokyoが初めて。
3rdアルバム「A World Of Pandemonium」も前2作と同様に大好きで、この日のワンマンはとにかく楽しみにしていた。

ちなみに3rd発売以降は、CDJで観ただけ。
その時のステージももうめっちゃ素晴らしかったのだけれど。

以下、終演直後の感想ツイートも交えながらの雑感。


まずは「このツアーのセットリストはどうなるんだろう?」というのがすごく楽しみだった。
3rd「A World Of Pandemonium」であれだけ解放的でオープンな音になって、これまでの2作も交えながらどういう風なライブになるんだろう、って。

「Deerhounds」で始まるんだろうな、というのはほぼ確信していた。
けれど思っていた以上にセットリストが「今のthe HIATUS」に振り切っていて(もちろん3rd収録曲はすべて入れてくれて)、それがすごく嬉しかった。

明確に意志が伝わる、筋の通ったセットリスト。
僕はセットリストを覚えるのって苦手なんだけれど、覚えるのに苦労をしないほど整然としてる。
(とはいえソースは僕の脳なので、間違っていたらすみません)

the HIATUSセットリスト A World Of Pandemonium Tour 2012.1.24 Zepp Tokyo

1.Deerhounds
2.Superblock
3.The Tower and The Snake
4.Bittersweet / Hatching Mayflies
(MC)
5.The Flare
6.Monkeys
7.Broccoli
8.My Own Worst Enemy
(MC)
9.The Ivy
10.Twisted Maple Trees
11.Insomnia
(MC)
12.Souls
13.Flyleaf
14.Snowflakes
15.Shimmer
(MC)
16.On Your Way Home
(encore1)
17.紺碧の夜に
(encore2)
18.ベテルギウスの灯
(encore3)
19.Storm Racers

いつもの入場SEで、5人が入ってくる。
このSEも新しい境地を切り拓き続けるHIATUSというバンドにピッタリだといつも思う。

1.Deerhounds
1曲目が始まると同時に、バックに巨大スクリーンがせり上がってきて、そこにはアルバムのジャケットにもなっている抽象画が。
ちょっとしたことだけれど、開演前からスクリーンが用意されているよりも、こうやって現れた方がライブが始まる高揚感が高まる。

「Deerhounds」のイントロでのギターの清々しさってなんなんだろうね。
ギターの響き一つで、どうしてこんなに解き放たれる気持ちになるんだろ。

I’m standing out in the world of pandemonium

この曲でいきなり「pandemonium」(大混乱)という言葉が出てくる。
僕はこのアルバムは「大混乱」ももちろん一つのテーマだろうけど、そこからの「目覚め」も大きなテーマだと思っていて。
それは単純にこのアルバム、「sleep」や特に「wake up」という言葉が乱発と言っていいほどよく出現することにも表れてると思う。

世界が混乱しているものであることを認めながらも、その中で悠然と立つ。
そんな清々しさ。
振り切ってる感。

「ROCKIN’ON JAPAN」2012年1月号での山崎洋一郎さんとのインタビューで、「”A” World Of Pandemonium」なのか「”The” World Of Pandemonium」なのかって話は面白かった。
そこでも語られていたことだけれど、「”A” World Of Pandemonium」にすることによって、世界が混乱しているものであること・混乱している世界が存在していることを「俯瞰的に」認めている、という意味が生まれてると思う。
(だからここはやっぱり”A”なんだ、と)

とりあえず曲に戻ると、この曲の終盤、堀江さんのピアノの軽やかさ(そしてその裏でこれまた軽やかに鳴る柏倉さんのドラム)と言ったらもう泣けてくる。
いかん、1曲目からこんなに付随的なことまで話してたら、このエントリはいつまで経っても終わらない(笑)

2.Superblock

このツイートで書いたことを感じ始めたのはこの「Superblock」から。
前2作(特に「ANOMALY」)のライブと比べて、曲の音数が多いわけではないのに柏倉さんのドラムがそこまで目立たなくなっているような。

書いた通り、僕は「ANOMALY」ツアー、具体的に言えば「Walking Like A Man」や「Notes Of Remembrance」あたりでの柏倉さんドラムを中心にした心地よさが大好きでした。

3rdが出た今となっては、むしろあっちの方がよっぽどpandemonium(大混乱)じゃん!と思わなくもない(音楽的な面では)。
でも「混乱」って、きっと渦中にいた時よりもそこから少し抜け出た時の方がしっかりと言葉にできるのかもしれない。

それで、その「ANOMALY」ツアーのような演奏・アクトではないんだな、ということを実感したのがこの「Superblock」。
でもそれは決して悪い意味ではなく、「うわ、まだ進化し続けるんですか!」という喜びと敬意のような感情。

3.The Tower and The Snake
これは3rdの中では「Broccoli」と並んで最も「ANOMALY」的な曲かな。
柏倉さんのドラムが半端ないことになっている。

4.Bittersweet / Hatching Mayflies
ここまで3rdの順番通り1曲目~3曲目ときて、ここで一つ飛ばしてシングル曲。

思えばこの曲は2011年8月のARABAKIで初めて聴いたので、意外ともう半年近くのお付き合いになってる。
他の曲よりもライブ演奏期間が長いという歳月を表すかのように、アレンジの進化がすごい。

特に堀江さんのピアノって、たぶん公演ごとに細かい即興も足したり引いたりしてるんじゃないかなあ。
この曲ではすごくそんな匂いを感じた。
細美さんも前にインタビューで「ライブ中、他のメンバーの音でそうきたか!と刺激されることが多い」って言ってたし。

「必死」っていうのは、まさにその通り。
対峙せざるを得ない。

この5人の「音楽的創造性」ってやっぱりものすごいと改めて思う。
そういう人たちの音は真摯に受け止めなければいけない、という思いがこちらにも強く生まれるんだよねえ。

3rdからの4曲が終わったところで細美さんのMC。
とにかく楽しそう。
そしてこのZepp Tokyoの(お客さんの)雰囲気がすごくいい、と。

そう言えばこの日は「細美さ~ん!」的な黄色い声援はほとんど飛んでなかったなあ。
フェスではまだまだそういう声も多いけれど、HIATUSのワンマンでは細美さんの志向性がどんどん伝わってきてるんだな。
それもまた嬉しいこと。
(CDJで細美さんが言ってた「ステージに向かって手を指すノリ」はきっとなくならないだろうけれど)

5.The Flare
序盤の「A World OF Pandemonium」パートの後は、HIATUSというバンドの中核を表現するような曲たち。
それにしても「The Flare」はこれまで観たHIATUSのライブ全てでやっているような気がする。
2009年のロックインジャパンフェス、アンコールでやる曲がなくなって、再度やったのがこの曲だったのをよく覚えてる。

6.Monkeys
「The Flare」にしても「Monkeys」にしても、ハードな音であることに変わりはないのだけれど、アレンジが「A World OF Pandemonium」仕様だと感じた。
こういう過去の曲でのアレンジからも、バンドとしての現在の立ち位置・スタンスが顕著に伝わってくる。
そのスタンスの変容が“わかりやすく”伝わるのってすごいことだと思うなー。

7.Broccoli
ここで「Broccoli」で、なるほどー!と思った。
3rdの中でも、「The Flare」や「Monkeys」が入るパートに組み込まれる曲なのね、と。
確かにそうだなあ。

ところでこの曲のリズムってとんでもない複雑さだよね。
ライブで聴いてみて「これ、ドラムに合わせて普通に演奏してるけどすごいな」と感じた。
このリズムでOKを出すバンド側もすごいし、普通に受け入れてるお客さんもすごい(あんまり意識してないのかも)。

8.My Own Worst Enemy
この曲も「なるほどー」と(ちょっと意外だった)。
「ANOMALY」ツアーの時は「延々とトリップできそうな心地よさ(特に柏倉さんドラム)」がライブでとても好きだった曲なんだけど、今回はまた全く違ったアレンジ・仕上がり。

あの心地よさを味わえないという残念な気持ちが全くないわけではないけれど、それを含めて考えても「今度はそうくるか!」という新鮮な驚きと楽しさの方が圧倒的に大きい。

あ、書いてて少し不安になってきた。
「全く違うアレンジ」とか書いてますが、例えばロックがアコースティックになるような、そこまでの「全く違う」ではないです。
僕にとっては「全く違う」であって、そこは人それぞれの受け取り方次第なんでしょう。

ここでまた細美さんMC。
「音楽脳がガーッと働いてると言葉がうまく出てこなくなる」と楽しそうに言いながら、「100年後にはここにいる誰ももう生きてないわけで、だから俺は今日はこの中で一番楽しむんだ。何言ってるか分からなくなってきた(笑)」

お客さんからの「アラフォー頑張れ!」という声に「うるせえ、お前の方がどう見たって年とってんじゃねえか!(笑)」と返すやり取りも。

9.The Ivy
再び仕切り直すようなこの轟音イントロ。

過去2作の曲で、もう一つ思ったこと。
3rdアルバムはボーカリスト・細美武士としても(40代にして)さらに高いキーに上っちゃってる作品なわけだけど、その効果が過去の曲ですごくよく表れてる。
具体的には、高音の声の張りがさらにすごくなっていると思う。

加えて、ライブ序盤はまだ喉が温まり切ってない感もあったけれど、中盤にくるともうボーカリストとしても全開。

ラスト、細美さんと堀江さんの二人にだけスポットライトが当たる。
こういうところの堀江さんのピアノとか、即興で弾いてるんだろうなあ、きっと。
変則的な音もあるんだけれど、それでいて美しい。

10.Twisted Maple Trees
そのボーカリストとしての凄味は、この曲も同様。
後半の高音部分の爆発力がさらに増してると思う。

その細美さんの歌から流れ込んでいく怒涛の終盤がいつも圧巻。

ちなみにこの曲は照明を落とし気味にしつつ、メンバーに暖かいオレンジ色のスポットが当たってた。
とても似合う。

11.Insomnia
イントロのドラムの音からドラマチック。

これはもう一つのアンセムだよねえ。
僕はそこまで必要としてるわけじゃないけれど、とはいえ会場が「save me!」で一つになれる光景はやっぱり素敵。
「こういう曲、待ってたんだろうな」というお客さんがたくさんいるのも分かる。

そして細美さんMC。

曲の途中でふとお客さんの方を見たらすごいいい笑顔ばっかりで、キューピッドの矢に胸を射抜かれたような感覚、っていう話。

お客さんからの「(インフルエンザで休んでた)ウエノさん治ったのー?」という問いには「ここにいるの見りゃ分かるだろ!」と返しつつ、「ウノさんがウエノさんになって…」と話し始めた。
これ、僕もよく意味が分からなかったんだけど、お客さんの反応が悪いと見ると「お前ら、笑わそうと思って言っても笑わないのな。それより音楽で笑顔になってくれる奴の方が俺は大っ好きだぜ!」と。
それで大歓声。

12.Souls
ここからはアコースティック・パート。
細美さんもキーボード側に回る。

Jamie Blakeのパートも細美さんが歌うスタイル。
もちろんサビのハモりが聴けたらそれはすごく最高なんだろうけれども。

ただそれがなくてもこの曲の柔らかさや美しさ、心地良さは至福。
この「Souls」や「Deerhounds」のように、3rdは3拍子が持つ幸福感がすごく表面に出てるよね。

細美さんがほぼずっと目を閉じながら(薄目で?)歌っていたのが印象的。
去年、主に「ANOMALY」ツアーで「視覚じゃなくて音楽で繋がってると思ってる」と言っていたけど、まさにその通り。

13.Flyleaf
間奏での細美さんのキーボード、牧歌的というかなんというか。
確実にこれまでのHIATUSにはなかった音。

この曲でやるような細美さんの歌い方、3rdで切り拓いた新境地だけれど、これからますます上手くなっていくんだと思う。

途中でとことん混沌としてぐちゃぐちゃになったバンドの音が、何もなかったかのようにアコギの音だけに戻る瞬間だとか、ほんとHIATUSというバンドの変さ・懐の深さを示してると思う。

14.Snowflakes
堀江さんのキーボードが美しい。
柏倉さんのドラムが歌い続けてる曲。
とはいえ「ANOMALY」の時と比べて、バンド全体の音の中でそのドラムの響き方が変わってる。
他の音がシンプルに(アコースティックに)なってるからかなあ。

15.Shimmer
アルバムと比べるとここは「Snowflakes」と曲順が入れ替わる形。
「Shimmer」の順番を後にすることによって、このライブ自体がより「A World Of Pandemonium」というアルバムらしくなると思う。

「Shimmer=かすかに光る、揺らめく」という意味の通り、透き通るような光を感じさせてくれる音。

この後にまた少しMCの時間。
お客さんから「気持ちいいー!」という声が上がったのが僕も嬉しかった。
いやほんとそうだよねえ。
気持ちいい。

16.On Your Way Home
細美さんが「ラスト1曲」と言って、本編ラストがこの曲。

セットリストを想像してる時、この曲が本編ラストなのかなそれともアンコールのラストなのかな、とあれこれ考えてた。
「まずこれがA World Of Pandemonium Tour 2011-2012のライブです!」という意味ではこの曲を本編ラストにしていったん完結、というのがスッキリするのかも。
セットリストとしての筋が通る感じ。
ただ、アンコールの大団円的に流れるこの曲も聴いてみたかった気はする。

この曲で会場の照明が一気に明るくなって、この視界が開けるスケール感は最後に相応しい。

こうしてセットリストを見返してみると、「A World Of Pandemonium」というアルバムとthe HIATUSというバンドががっつり一体となったものだと分かる。

何よりすごいのは、そういう単純な曲の順番ではなく、どの曲でも「現在のthe HIATUS」「A World Of Pandemoniumというアルバムを出したthe HIATUS」の音になっていること。
つまり、すごく有機的な音が満ち溢れている「A World Of Pandemonium」というアルバムと同様に、the HIATUSというバンド自体も有機的に変化・進化している、ということ。

もちろんその二つの間は密接に関わり合うものだけれど、それでもやっぱりライブでの音でここまで表現できるバンドってなかなかないよ。

(encore1)17.紺碧の夜に
アンコールでまず細美さんが一人だけ登場して、少し話していた。

俺達のライブってたとえ同じ曲をやっても毎回違うものになるんだけど、今日のお前らのこと、けっこう好きだぜ。
今まで思ってることと逆のことを言っちゃうことが多かったんだけど、昨日の夜にちゃんと本当のことを言おうと思ったんだよね。
こうしてライブに来てくれるお前らのこと、俺は大好きだ!
ほら、こんなこと言う奴、気持ち悪いだろ(笑)

最後の「こういうことを言う奴は気持ち悪い」っていう部分にすごく共感。
そここそ、細美さんらしいと思う。
そういうある種の真っ当さや純粋さを備えてるから、僕は細美さんのことが好きなのだと思う。
(まあ、そういう部分があるから誤解を生んだりもするのだけれど。笑)

アンコールのことを細美さんは「楽しい打ち上げ」と称していて、その表現はすごく腑に落ちた。
その表現の通り、「紺碧の夜に」の楽しさといったらね。

ここらへんの曲を本編ではなくアンコールでやるところも、僕が今回のライブが好きな理由の一つになってると思う。

(encore2)18.ベテルギウスの灯
再び登場して、2回目のアンコール。

masasucksが青いギターでイントロを2音だけ弾くのを繰り返して焦らす、ってところに痺れましたよ。
あの音で、ですよ、あの音で。
「なんなの、そのかっこええ焦らしは!」って思っちゃいましたわ。

「紺碧の夜に」と並んで、これはもう「楽しい打ち上げ」以外の何物でもない。

(encore3)19.Storm Racers
さすがにもうないかと思ってたら、なんと3度目のアンコール。
ほんとありがとう、という感じ。

以上、本編16曲とアンコール3回で3曲、合計19曲。

何度も言うけれど、「A World Of Pandemonium」をリリースした今のthe HIATUSの音、そして日本になかなか無い音がこれでもかと満ち溢れていたライブでした。

ところでステージの後ろにある大スクリーン、曲によっては静止画だけではなくて抽象的な映像が流れてた。
ただ僕はもう音を聴いて拾うのに精一杯で、映像と音楽の掛け合わせまで考える余裕はなかったです。

映像面ももちろんHIATUSの表現の一つなんだろうけれど、音楽が素敵すぎてそっちに必死だった。
でも音楽家ならばそれが最高な形なんじゃないかとも思う。

翌日(1/25)も同じZepp Tokyoで、同じthe HIATUSのライブ。

セットリストは全く同じなのかどうか、ももちろん気になる。
けれどこうやって連日HIATUSを観るのは初めてなので、メンバー(特に堀江さんと柏倉さん)が本当に即興的な音を出しまくっているのか、というところをすごく聴いてみたい。
(そこに自分が気づけるか、という大きな問題はあるんだけど…)

これだけ創造的なライブだと、連日でも、何日でも、その度に新しい発見がありそう。
そう思わせてくれるthe HIATUSというバンドが大好きです。