「お前は黙ってろ!」
父親は、母親を怒鳴りつけると、再び息子の方に寄ってきた。
「何度言っても聞かないからだぞ!」
父親は、殴る前にいつも言い訳を用意しておく男だった。
とはいえ、父親の性格なぞには関係なく、
息子の頬にとんでくるビンタは、いつも刺すような痛みを与えた。
「表でしばらく反省してろ!」
男の子は首根っこを掴まれ、2月の寒さの中、家の外に追いやられた。
玄関が閉まる前に、ダウンジャケットがぼさっと投げられてきた。
1月にも、同じようなことがあった。
あの時は、両手の感覚がなくなってきた頃に、ようやく母親が戸を開けたのだった。
あれと同じだけの時間が襲ってくるのだと思うと、
世界の終わりのような絶望感に襲われた。
北風が吹きすさぶ夜空を、彼は恨めしそうに見上げた。
すると、そこに僅かな光が輝いたのを彼は見つけた。
光は、最初は一つだけだったが、次第に数を増やしていった。
男の子の顔を照らすほどの明るさになるまで、あっという間だった。
光だと思っていたのは、スカシテンジクダイだった。
その日は、数年に一度訪れる、スカシテンジクダイ流星群の日だったのだ。
スカシテンジクダイの大群はまたたく間に夜空を埋め尽くすと、
キラキラと輝きを放った。
暗闇だった空は、昼間でも見たことのないような青色になった。
男の子は、スカシテンジクダイが駆け巡る空に釘付けになった。
そして、青が好きでそればかり塗るものだから、
青色のクレヨンだけを父親に買い足してもらった日を思い出した。
彼の頭上には、スカシテンジクダイが次々に現れては放つ光と色の世界が広がっていた。
2月の気温などは、もう関係なかった。
彼は、感覚のなくなった両手をこすり合わせながら、
この夜を忘れることはおそらく一生ないだろうという予感を感じていた。