神は、まずチゴベニハゼを創られた。
チゴベニハゼが生を受けた場所は、海でも陸でもなく、
そこはただ地球としか言いようのない地だった。
チゴベニハゼは、まず移動することから始めた。
行けるところまで行き、
見られるすべてのものを見、
そしてチゴベニハゼは、この地には何もないことを知った。
そこから、彼は考えることを始めた。
誰が、自分をこの地に産み落としたのか。
なぜ、自分は生まれてきたのか。
「これは悪い冗談だ」として済ませようとした数日間もあった。
だが、彼の心の中のしこりは消えなかった。
生きる意味が分からず、苦悩し続けた数ヶ月間もあった。
しかしその数ヶ月を経てもなお、彼は変わらず生きていた。
自分の体の頑丈さを呪ったりもした。
いつの日か、彼は考えることを止めた。
正確に言えば、全てを受け入れることを決めたのだった。
すると不思議なことに、今まで目に入らなかったものが見えるようになった。
小さな石の、驚くほどの輝き。
吸い込まれそうになる、空の高さ。
もしかしたらもしかして。
世界は美しいんじゃないか。
チゴベニハゼは、そう思うようになった。
ただ残念だったのは、
その世界で一番美しかった彼の体色が、彼自身からは見えなかったことだ。
それでも、彼は世界を享受した。
そこらを動き回るだけで、世界は無限の楽しさに溢れていた。
やがて、その楽しさよりも先に、彼の寿命が尽きるときがきた。
かつて呪った自分の体の頑丈さを、もう一度取り戻すことができれば。
「いい気なものだな」と分かりながらも、そう思わずにはいられなかった。
が、その願いは叶わなかった。
それが、老いというものだった。
蝋燭の灯が静かに消えるように、
音もなく、彼の体がころん、と転がった。
その世界でただ一つの生命が消えた。
「やはりダメだったか」
神は、天からその様子を見ていた。
それから神は、一人の男を、その後、一人の女を創られた。
男と女は、二人で園に暮らし始めた。
彼らの名前は、アダムとイヴであった。