「ねえ、ねえ、遊んでよ」
ミノカサゴの誘いを、僕はずっと断りっぱなしだった。
その穴埋めと言うわけではないが、
先日は相手をしてあげようと思ったのだ。
僕はミノカサゴに訊いた。
「じゃあ、何をして遊ぶ?」
「うーん、じゃあ僕がクイズを出すよ」
そうか、クイズときたか。
確かに、彼とはじゃんけんも、プロレスごっこも、ニンテンドーDSも、できそうになかった。
「うん、いいよ。
なんでもクイズを出してみてよ」
僕にやっと遊んでもらえるのがうれしいのか、
ミノカサゴはますますこっちに迫ってきた。
おいおい、近すぎるよ。
僕はヒレが触らない程度の距離を保った。
「じゃあ、だいいちもん!」
「よし、いいよ!」
「この惑星の海で、初めて生涯を底質で過ごした生物、つまりベントスが生まれたのは、今から何年前?」
「・・・・・・え?」
「もちろん、だいたいの年数でいいよ」
「・・・・・・」
分からなかった。
正直に言うと、興味を持ったことすらなかった。
「わからないの?じゃあ僕の勝ちだね!」
僕は負けた。
僕の予想とは全く違うタイプの問題だったが、
その読みの甘さも含めて、完膚なきまでに打ちのめされた。
ただ、負けたことがショックなのではなかった。
自分に縁のなかった知識を持っているミノカサゴを相手に、
「遊んであげよう」という意識を持っていたこと、
その傲慢さがショックだった。
差別意識など、ないようにしてきたつもりだった。
「毎日が勉強だ」「何事からも学ぶことがある」とも、思ってきたつもりだった。
しかし、僕はミノカサゴのことをまるで”格下”のように扱っていた。
自分でも気がつかないうちに、扱ってしまっていた。
「負けたよ」
負けたことが問題ではなかったのだが、
今の僕にはそれしかミノカサゴに言う言葉が見つからなかった。
「ふふーん。じゃあぼくの一勝ね!」
今度は、僕が身を乗り出して訊いた。
「ねえ、答えを教えておくれよ。
そして、君はどうしてそのことを知ってるんだい?」
自分で言うのもなんだが、僕には一つだけ救いがあった。
「遊ぶ」という言葉には「学ぶ」という意味が含まれている。
それを知っていることが、唯一の救いだった。
僕は、ミノカサゴと、海の奥へ奥へと、進んでいった。
深い、深い、水の中へ。
それは、僕の新たな”遊学”だった。