お母さんがいない、という場所なんて、
想像したこともなかった。
生まれてからずっと、お母さんと一緒だった。
「にゅうえん、おめでとう」
「にゅうえん、おめでとう」
みんなにそう言われるものだからなにか良いことのように思っていたが、
一方ではモヤモヤしたものが残るのだった。
オルトマンワラエビには、
その正体が"不安"なのだということに辿りつけるだけの言葉も経験もなかった。
レールとは、便利なものであるのと同時に、不条理なものでもある。
彼がそこで希望を見つけるのか、
あるいは絶望にぶつかるのか、
誰にもわかりはしない。
そんなオルトマンワラエビに、誰かが言った。
「良いことは、必ずある」
と。
その先に幸福が待っているのか不幸が待っているのか。
分からないのなら、幸福を期待してみればいい。
そうしてみてから、裏切られることもある。
美しい世界が広がっているのに、
それが目に入らないという不幸が起こることもある。
とはいえ、どこかに何かは必ず転がっているものだ。
あとは自分次第でもあるし、運次第でもある。
世界は美しい、などとは容易に言い切れない。
だが、
世界には美しいものがある、とは言い切ることができる。
にゅうえん、おめでとう。