ハナタツの家が朽ち果て、直に崩れ落ちるのは明白だった。
学者たちは、その可能性と危険性を、ハナタツに繰り返し述べた。
彼らによれば、ハナタツの家が1週間以内に崩れ落ちる確率は99.87%。
それはもはや、予言ではなく、既成事実になりかけようとしている。
その通りに崩れ落ちてしまったとしたら、
ハナタツを待っているものは放浪の末の死、のみだった。
ハナタツはしかし、頑として彼らの言うことに耳を傾けなかった。
長い間、彼は一人ぼっちで生きてきた。
それはつまり、その家の良さを知っているのも彼一人、ということに他ならなかった。
ハナタツを善意で説得してきた学者たちは、
全く聞く耳を持たないハナタツを傲慢だと思うようになった。
「我々は、君のためを思って言っているのだ」
学者たちは、やがて、他の研究テーマに取り組み始めた。
ハナタツを馬鹿にしながら。
「フン、わかっていない奴め」
ハナタツは、ようやく元通り静かな毎日に戻ったと、安堵した。
実際のところ、自分の家が崩れ落ちようかどうかなど、彼にはわかっていなかった。
彼がわかっているのは、自分が誰よりもその家を愛している、ということだけだった。
それは、何よりも強く、尊い事実だった。
仮にその家を出てしまったとしたら、
崩れ落ちてしまうのはハナタツの方だった。
そのことを、彼は自分自身で理解していた。
「問題は、『崩れ落ちるか崩れ落ちないか』、じゃない。
『何が』崩れ落ちるか、なんだ。」
たとえ自分の家が崩れ落ちることを確信していたとしても、
彼にはそこを出ていくことなどできなかった。
家が軋み始めた音を聞きながら、
ハナタツはそこに染みついた思い出を振り返っていた。
たくさんの、たくさんの出来事を思い浮かべたあと、
ふとあの学者たちの顔も思い出された。
そしてハナタツは彼らを蔑みながら、こう呟くのだった。
「フン、わかっていない奴らめ」