ニシキカンザシヤドカリの託言

帝国軍が城を急襲したのはあまりに急なことで、
逃れる術もなかった王子は、邪悪な皇帝に呪いをかけられてしまった。


その呪いとは、
美男子だった王子をニシキカンザシヤドカリに変えるものだった。

帝国軍は、皇子だけでなく城にいた者すべてに呪いをかけていった。
城に住む者で唯一助かったのは、
ちょうどその時花畑に出かけていたクローディアだった。
彼女は王子の婚約者であり、
帝国軍の襲撃を最も深く悲しんだ者の一人だった。

彼女は、王子がニシキカンザシヤドカリに変えられたと知り、
その場で卒倒してしまいそうなショックを受けた。

けれど、すぐに王子を探す旅に出ることを決意した。

「私が見つけられなければ、他の誰が見つけられるというの」

クローディアは、
まずニシキカンザシヤドカリとカンザシヤドカリの違いを学ぶことから始めた。
その識別ができるようになると、
あらゆるニシキカンザシヤドカリを探した。

その国には、ニシキカンザシヤドカリは5匹しかいなかった。
それぞれ、生息している場所や環境が異なった。
とはいえ問題なのは、呪いを解くための薬が一つしかないことだった。
つまり、5匹の中から王子を確実に当てなければ、
クローディアはもう二度と王子の姿を見ることができない、ということだった。

クローディアは、悩んだ。
いや、分かるわけもなかった。

5匹のニシキカンザシヤドカリは話すこともできない上に、
そのうちのどれかが人間の様な仕草をしてくれるわけでもなかった。

彼女は、何か手掛かりはないかと、
帝国軍の襲来で荒れ果ててしまった王子の部屋を調べた。

すると、かすかにめくれた絨毯の下に、一枚の紙切れを見つけた。
どうやらクローディアに宛てたもののようだった。
そこには、こう書かれていた。

むかしむかしに
らいむぎばたけでつかまえたきみのこと
さえないやつだということがわかって
きらいになっちゃった

クローディアは、深くうなずいた。

そして、5匹のニシキカンザシヤドカリの中から、
紫に囲まれた場所に住む個体を選び、薬を与えた。
彼女の有無を言わせぬ行動に、周りの者は驚き呆れ、
制止するのも忘れるほどだった。

だが、そのニシキカンザシヤドカリは、みるみるうちに王子の姿になった。

クローディアの選択は、正しかったのだ。

「よくわかったね」
王子は、微笑みながら言った。

「王子が書かれていた通りにしたのです。
 4行の文の初めの文字を抜き出して読むと、むらさき、になります。
 王子は、自分がお好きな色の場所にいらっしゃるのだとわかりました」

「そうか。
 でももしかしたら、
 本当に君のことが嫌いになった、という意味だったかもしれないよ?」

「ふふ。そんなわけありません」

クローディアは、真っすぐな目で、にこやかに笑った。

「王子は、これから死ぬかもしれないというときに、
 誰かの悪口を書くような方ではないでしょう」