’11上方水中映像祭り、行ってきました!
僕がやっているサイト・スキューバダイビング.jpでも応援していて特集を組んでいたりしていたこともあって、去年よりもより楽しみな気分で大阪まで。
その私的な感想などをつづりますー。

'11上方水中映像祭り(海遊館ホール)

サイトでの特集はこちらをご覧ください。
’11上方水中映像祭り特集 « スキューバダイビング.jp

僕は12:00から行われた一部を観に行ったんですが、予想通りというか、会場の海遊館ホールはほぼ満員。
やっぱりすごい盛り上がりだなー、と改めて感じました。

さて、以下は僕の独断と私見による、作品ごとの感想を記しておきます。
知り合いの方もだいぶ増えてしまって、正直な感想を言いにくくなってる気がするのですが(笑)、思ったことを素直に書いておいた方がいいかと思って、ちゃんと書きます。

まず、最初に僕の見方・視点を明確にしておきます。

上方水中映像祭りであれ、どんな水中映像であれ、僕が期待してしまうのはいつも決まったことです。

「その作品を見たノンダイバーの親子でも楽しんでもらえるかどうか」

ここに尽きます。

僕自身は、けっこうコアなダイバーの方に分類されるんじゃないかと(自分で)思ってます。
産卵や求愛を見るためなら平気で60分粘ったりしますし、レアもの・普通種に限らず魚は基本的にどれも大好きです。

ただ、映像作品を見る時はそんなダイバー視点というよりは、一般人目線で見てしまうのです。
それはおそらく、「映像」というものが持つ力を信じているからだと思います。
簡単に言えば、「映像を通じてだと、ノンダイバーさんにも海の魅力ってより分かってもらえるよね」ということ。

これはあくまで僕の視点で、「いや、でもこれはダイバーに向けた作品(イベント)なんです」と言われてしまうと、「ああ、そうでしたか…すいません」としか言えなくなってしまうのですが…。

また、出展されたみなさんはほとんどがアマチュアの方で(実際にこのイベントも無料ですし)、それに対して「評する」というのはちょっと違うと思うので、以下に書くのはあくまで僕の私見であって、ごくごく私的な感想とご理解ください。

と、僕の見方・視点を明確にしたところで前置きは終えて、以下はそれぞれの作品の簡単な感想をば。

 

1 熊本修太(すた)(一般公募) 「雫の旅 〜A water cycle story〜」

面識はないのですが、ブログ(気分蒼海)を拝見していて「良い写真を撮られるなー」と思っていたすたさんの作品。

ブログからも伝わってきていましたが、センスが良いなあと思います。
「センス」って一言で片づけてしまうのはちょっと芸がないのですが、BGMにQ;indiviの「Voices」を使っていたり、編集の仕方だったり、もちろん写真の腕も、です。

森と海の繋がりをテーマにするには最適とも言える屋久島を舞台に、最初は森の風景から始まって、中盤~後半は水中写真になる流れ。
その構成だけで「雫の旅」となっているとも言えるのですが、後半は水中写真をただ並べる展開になっていたところにもう少し説明を加えると、見る側にもっと"ストーリー”が生まれた気がします。
(雫の旅っていうことなら、最後は海から雨になって森に降るシーンに帰着して一つのサイクルを示すのもアリだったかもですね)

この“ストーリー”ってたぶんこの後も何度も書くと思われる言葉ですが、個人的には映像を見るにあたってものすごく大切なことだと思ってます。
綺麗な水中写真を並べるのもいいのですが、それだともともと水中写真に興味がある人に伝わるだけで終わってしまう。
そこに“ストーリー”が加わることで、何倍もの(ダイバー以外の)人にも伝わる作品になると思っているのです。

とか言いつつ、ダイバー目線としては、水中写真のクオリティの高さが素敵な作品。
ヤクシマカクレエビとかご当地ものも織り交ぜつつ、個人的にはツノダシ(ムレハタタテダイだったかな?)をスローシャッターで撮った写真がすごく印象的でした。

最初っから長々と語ってしまった…。
こんなんじゃ全15作品もたないので、ちょっとペースを上げます(笑)

2 酒井由紀代(一般公募) 「SAIPAN」

レミオロメン「南風」のライブバージョンが流れた時に「ああ、ライブ版ね、なるほど」と思いました。
ライブバージョンの曲をあてることによって、ダイビングもその場(サイパン)にいるような気分になるのかな、と思ったり。
ただ他の人の意見では、「ライブのお客さんの歓声(水中世界には存在しないもの)で、ちょっと集中できなかった」というのも聞いて、なるほど難しいなあ、と。

カットとカットの間でフェードイン・アウトとパッと切り換えるのを使い分けていて、ちゃんと意図を感じました。
(全体的に見渡しても、そういった細部の編集はすごくレベルが上がってるなあ、と)

ただこれもやや作品を並べてはいどうぞ、になっているので、もうちょっとストーリーがあるともっと伝わるのにもったいないなあ、と思いました。

3 柏島ダイビングサービス AQUAS(協賛ダイビングサービス) 「柏島の海 〜笑いの流儀〜」

前半はダイバーにしか分からない柏島のレアもの・アイドルを中心とした構成。
後半で一気に「笑い」にシフトして、会場の笑いを誘ってました。
「3」「4」「5」と被写体の生物がどんどん増えていくところとか、とっても分かりやすくて素敵。

やっぱり数秒のショットでダイバー以外の人も巻き込めるのって、「求愛ですよ」「産卵ですよ」と言うより、「数が増えたで~!」の方がいいんですよね。
そこを踏まえてらっしゃるのが素晴らしい。

もちろんノンダイバーの人に「求愛」などの生態行動を伝えるのもアリ(というかむしろ大事)だと思うんですが、その場合は2~3分かけて丁寧に説明してあげることで、ようやく「ああ、なるほどね、面白い」となるんじゃないかと思ってます。
なので、個人的には生態行動なら、いっそそれだけにテーマを絞った作品の方がいいのかなと思っています。
(ここはAQUASさんと関係ない、一般論です)

あ、クレジットに撮影者は「松野さんとゲストのみなさん」と書いてあって、「あら、ゲストの写真もあるんだ、どれぐらいがゲストの写真なんだろう」と気になってしまいました(笑)

4 DAIKI(一般公募) 「オオカワリギンチャクの群生」

オオカワリギンチャクって分かりやすく綺麗な色で、それだけでも十分に作品として成り立ちますよね。
ただこれ
も“ストーリー”がほしいなと思ってしまいます。

例えば「木登り編」というパートがあるんですが、「オオカワリギンチャクが木(のような木片)に登ること」って、ノンダイバーにとってはそれが珍しいことなのかどうなのかも分からないんですよね。
その背景なども含めて説明してあげると親切かなあと思いました。

5 山中利文(一般公募) 「水中写真 ヨメと、子供と、時々オトン」

小田和正の「言葉にできない」を使ってるのですが、これがいい曲過ぎてこの作品を「いい話」として受け取っていいのか「自虐ネタ」として受け取っていいのか、よく分からなかったのが正直なところ…。
それがどっちで臨めばいいのか分かりやすかったら、個人的にはもっと没頭して観られたと思います。

6 伊藤恵里奈 ・小林裕幸 ・宮道成彦(一般公募) 「好きやで、すまっぷー!」

音楽・編集・テロップなどはベタなんですが、ストーリーを提示してくれると分かりやすいなあという好例。

7 須江ダイビングセンター(阿部秀樹・尚原秀典)(協賛ダイビングサービス) 「自分時間が持てる場所 -須江 心に残る海-」

プロの阿部秀樹さんが撮った須江の水中写真がメインの構成。
ただ、阿部さんに遠慮しているのか、ほとんどが須江の海のプロモーションムービーになっている感。
(僕も名古屋に住んでいた頃に須江は何度か潜って、確かにすごい海だと思うのですが)

一番印象に残ったのは、最後に尚原さんが撮ったタコの動画。
「触れあい」ということで、タコの足と人間の指が引っ張りっこをしてるようなかわいらしい絵で、テーマの付け方も含めてこういう方が分かりやすいなあと思っていました。

8 michiki ・ sachi☆(一般公募) 「LIFE in the ocean」

ちょっとダイバー目線も入ってますが、個人的にはベストと言える作品でした。

途中までも「いいなあ」と思って観ていたのですが、最後のマダラギンポの産卵シーンが素晴らしくて、それが強烈に印象に残っています。

マダラギンポは雄が卵を口の中に入れた状態で孵化し、その後に稚魚が口から放たれます。
マダラギンポのパートは、その雄と稚魚を見事に捉えられた写真からスタート(稚魚が放たれた瞬間)。

まずはそのマダラギンポの特性を紹介して、その後に巣穴を狙う他の雄や、稚魚を捕食しようと狙う魚が登場。
そこにはまさに卵・稚魚を守ろうとするマダラギンポの“ストーリー”があって、その繁殖の気持ちって(説明をしてくれると)誰にでも分かりやすいお話なんですよね。

さらにこの作品が水中写真スライド作品として素晴らしいのは、その他の雄が巣穴を狙っている様子や、捕食しようとする魚を、主人公のマダラギンポも交えつつちゃんと一枚の写真に収めていること。
写真の中だけでもすでに“ストーリー”が読みこまれたものになってるんですよね。
(これはバディお二人で違ったアングルから撮影できた強みなのかもしれません)

そして、マダラギンポのパートのラストは、最初に紹介されたのと同じ、雄と稚魚の写真で締められます。
この写真自体、素晴らしい一枚なのですが、最初に紹介された後にストーリーを見せてもらってから改めて観ると、心への沁み入り方が全く違いました。
最後にこの写真をもう一度見せて終える、という決断をされたことも素晴らしいと思いました。
(褒めすぎですかね…)

michikiさんとはウェブでしか面識がなかったのですが、ちょうどこの後にご挨拶できて何よりでした。
その時は作品を観終わった直後で興奮していて(笑)、どこが良かったのかをあまり上手く話せなかったんですが、やっとちゃんと書くことができました。

~休憩~

9  あなたの水中写真を見せて♪(一般応募写真)

アマチュアもプロも混じってのスライド。
何気ないところですが、写真の特性によってズームなど細かい編集効果も施されていました。
そういったところに幹事団の方の「その写真をより良く見せてあげたい」という気持ちが見えて、素敵だなあと思いました。

ちなみに、西本さんの大瀬崎のゴンズイの群れの写真が一番印象に残りました。
(ライトの当て方が面白かったです)
あと、酒井さんの水面を泳ぐゾウも、やっぱりインパクト強いよなあー、と。
(僕は写真展ですでに拝見していたんですが、初めて観る人はすげえ!と思いますよね)

10 AGO(幹事団) 「TRICK」

「スライドを作るちゃんとした作品がない」ってことで作られたトリック的な作品。
でも単に上手い写真を並べるよりも、こうやって構成してもらえた方がずっと見やすいし、面白いなあと思います。

僕が言っている“ストーリー”って大きく分けて二つに分かれるんですよね。

・撮影した被写体(生物)に関するストーリー
・撮影している撮影者に関するストーリー

その意味では、この作品は後者で、例えば8のmichikiさんの作品は前者。
このAGOさんの作品も「ああ、あるある」と思いながら拝見しました。
「言い切ればそう見える」と言って、水中の四季を表現した(つもりの)作品を紹介したり、「確かに(笑)」と。

ただ、“撮影者に関するストーリー”なんですが、やっぱりどうしてもダイバー目線には寄っちゃうんだなあとも感じました。
(細かいところですし、なかなか難しいんですけれども)

例えば、クマノミの写真で失敗が多いという流れで、「全滅!?」という言葉で撮影者の心境が語られます。
フォト派のダイバーであれば「全滅=上手く撮れた写真が一枚もない」とすぐに分かるんですが、ノンダイバーにとって「全滅」と言われると、魚の命が滅びたんじゃないかと思うことが多いのではないでしょうか。

すごく細かいことなんですが、そこらへんをノンダイバーさんにも伝わる表現で、観ている人の頭の中の「?」を減らしてあげると、もっと心にすっと入る作品になるんじゃないかと思いました。

11 UMA会長 古菅正道(一般公募) 「YARASE」

テーマが深かった…!
基本的にはお笑いテイストなんですが、例えばダイバーがいることでオヤビッチャが逃げて卵が食べられることだとか、真面目なダイバーが集まったら議論になりそうなテーマですよね。
それを笑いというエッセンスで包んで軽妙に飛び跳ねているのが、古菅さんにしかできない表現なんだろうなあ、と。

ラストの、無音の中で「笑えないヤラセはしてはいけない」というメッセージも、僕だけでなく会場の皆さんにも響いたんじゃないでしょうか。

ただ、やっぱりダイバー向けに少し寄ってるかなということは感じました。
例えば単純な話、魚の卵って、ノンダイバーの人はよく分からないと思うんですよね。
(いや、ダイバーでも分からない人はたくさんいると思います)
それこそ、画面に「○」をつけて、矢印「→」までつけて、「これこれ!」って伝えるぐらいでないと。
例えばそういうあたりが、ちょっとハイブローではあるかなと思いました。
(でもダイバーとしての僕の視点では、とても好きな作品です)

12 備後輝 & ひろちゃん☆彡(幹事団) 「マナティー ~Our Friends~」

最初、紫のマーカーがついたフロリダの地図が挿入されていて、おおすごいな、と。
しかもナレーションまでちゃんと入れていて、すごいな、と。

クリスタルリバーに生息するマナティーが丁寧に紹介されていて、知らない人にはすごく分かりやすかったんじゃないかと思います。

これも細かい話なんですが、テロップを横流しにすると、文末が流れるまで視線がそこに集中しちゃう(動画を見られない)ことになってしまうので、ちょっともったいないなと思いました。

13 五十嵐“Garuda”一規(一般公募) 「泥底依存症患者のスケッチ」

これも大好きでした。
個人的には8のmichikiさんの作品とこれが好きです。

まあ、個人的な基準に当てはめると「子どもはこんなに漢字を読めないだろう」となるんですが(笑)、でも意識が外向きなのがすごく好きです。
最初の砂浜でのバックロールエントリー(笑)で掴みをバッチリしておいて(あれはすごい笑った!)、泥でハゼが隠れてしまうシーンや、呼吸音でハゼが隠れてしまうシーン。
ああいうのって、まさにノンダイバーさんでも「ああっ!(涙)」って思っちゃいますよね。

動画の編集スキルもすごいなーと思いました。
きっと普段から映画やテレビや映像をよくご覧になってるんですよね。
やっぱりダイビングの他にも「好きなもの」があるのって強みだなあと思ったりしました。

ちなみに、この作品も(結果的には)リロアンの海のプロモーションになってるんですよね。
ただ、ストレートに「これが見られます、これがいます」と映像で並べるより、例えばこの作品のように「依存症」という話からつなげて「依存度チェックリスト20」として少し見せ方を変えるだけで、全く“宣伝臭”がなくなるのは巧みだなあ、と思います。

14 鈴木あやの(一般公募) 「小笠原での素敵な出逢い」

普段から動画編集に親しんでいらっしゃることもあって、あやのさんも「センスがいい」んですよね。
フォントでさらっと明朝体を使いこなしてるあたり、実はけっこう真似しようとしても真似できないんですよねえ。
あとは、海に潜っていく時の、下から上に流れるテロップだとか。

映像は、何よりクジラの声がすごかった。
あやのさんのもう一つの長所は、自分の感動を自分の言葉で伝えられることですよね。
クジラの映像ももちろんよかったんですが、同時にあやのさんも感動したんだろうなあということも伝わってきます。

さっき上で「ストーリーには二種類ある」と書きましたが、あやのさんのこの作品には二つが同居してるんですよね。
クジラのストーリーと、それに感動するあやのさん自身のストーリー(気持ち)。
そこが素直でいい人なんだなあ、と。

一つだけ思ったのは、おそらく著作権フリーの音楽を使ってらっしゃると思うんですが、その音楽がいたって普通、ということしょうか…。
でもこれは推測ですが、あやのさんはYouTubeにアップすることを見越して、著作権フリーのものを使ってるんですよね。
(ある意味、そこも真剣に考えている出品者はあやのさんだけなんだと思います)
この「水中映像イベントとYouTubeとの関係」は僕もどうしたものかなあと思ってるところなんですが、脱線するにも程があるので、また別のエントリで書けたら書きます。

15 赤木正和(招待プロ水中写真家) 「Dolphin Dream」

ここまでで、知り合いに対しても「勝手なこと書きやがってー!」と言われそうなことを散々書いてきたんですが、さすがに赤木さんほどの大御所は僕なんぞが気軽に言える立場にないです…。

ご本人も「直球一本勝負」と仰られていましたが、確かにそういった内容。
3D用に撮った映像というのも関係はしていると思うのですが、もうちょっと編集に手を加えてもよかったのでは、あるいは何かしらの“ストーリー”を入れてもよかったのでは、とは思ってしまいました(すいません)。

以上、全15作品の個人的な感想でした。

去年も拝見したのですが、全体的に写真の全体的なクオリティ、そして編集テクニックの全体的なクオリティがすごく上がってるなー!と感じました。
応募作品も増えて、幹事団の方々の選考センスも大きく関わっていることでしょう。

いいものを見せてもらって、ありがとうございました!

そして観ている時も、このエントリを書いている時も思ったんですが、一番ヘタレなのは未だに水中映像作品を仕上げられていない僕ですね…。
今年はちゃんとやらなければ!