イシダタミヤドカリの断絶
彼は頑丈なよろいを身にまとっていたものの、
それでも世界にとびだす勇気を持つことができずにいた。
試したことがないわけではない。
このままではいけないことも分かっている。
けれども、彼が何かを始めようとすると、
他のまた何か大きな力が働いて、
彼をだめにしてしまうのだった。
ちょっとやってみても、それを粉々にされるたびに、
次のときにはよりいっそうの勇気が必要になる。
それを何度もくりかえすうちに、
イシダタミヤドカリの勇気のメーターは振り切れてしまった。
そうして彼は、昔からの場所にいついている。
体をだいじに守って、
物陰に身をひそめて、
両の眼でひっそりと世界をみている。
「ほんとうはあそこにいなければいけない」という自責と、
「しかし自分はあそこにいることができない」という憤りを抱えながら。
イシダタミヤドカリには、親も恋人も友達もいなかった。
それはつまり、
彼がそうやって生きていてもいいのだと教える人がいない、ということでもあり、
彼が少しずつ外に出ていく勇気を分けてくれる人がいない、ということでもあった。
イシダタミヤドカリは、まだそこにいる。
そして、他の場所でも、
彼と似た生き物が星の数ほど生きている。
同じように、息をひそめて。
そしておそらく彼らも、たった一匹で。

コメント
怖く、悲しいお話でしたね。
写真からもその孤独感と恐怖感が伝わってきました。
イシダタミヤドカリが勇気のもらえる生き物に早く会えるといいなぁ
と思いました。
by かにころ at 2009-09-04 14:15
> かにころくん
今回は話の中に直接的な救いを入れてみませんでした。
僕は温かい目で俯瞰的に見守ってあげているつもりなんですけれども(笑)
そうやって思ってくれるかにころくんは、とても優しい人ですね!
by いぬたく
at 2009-09-04 17:30
コメントする