ベニカエルアンコウと染み

その一日は、
テーブルクロスにこぼしたコーヒーの染みのように、
ベニカエルアンコウの心の中にこびり付いている。

どんなに海が凪いだ日も、
どんなにうねりが強烈だった日も、
あの一日のことを忘れたことはなかった。

あれで正しかったのだろうか。

他にできることは、なかったのだろうか。

染みは、時には彼の心全体を黒く染め上げ、
また時には刃物となって彼を突き刺した。

自問自答を続けた後、
彼が辿り着くことのできる確信は、常にただ一つだった。

自分は、生きている。

ベニカエルアンコウにとっては、その葛藤こそが生に他ならなかった。

だからこそ彼は、
悩み続け、
そして、
生き続けている。

彼には、もはや生きていくことしかなかった。

その姿を、
ある者は「後ろ向きだ」と言い、
またある者は「いや、前向きだ」と言う。

そんな声に耳を傾けることもなく、
ベニカエルアンコウは生き続けている。

昨日も、今日も、明日も。

たった一滴の、
しかし永遠に消えることのない、染みを抱えながら。