前回の続き的な内容です。
前回のコラムは、こちら→「ダイビング版Web2.0」って可能なんだろうか」

今回のテーマは、「価格.comとか食べログのダイビング版はなんで成功しなさそうなのか?」
言い換えれば、「ダイビングの口コミを鵜呑みにしてはいけないと僕が思う理由」です。

ダイビングのクチコミサイトというと、2008年9月から潜ログができました。
ただ、このサイトの登場を待つまでもなく、
ダイビング周りには昔からいろんな口コミが飛びかってきました。

つまり、「〇〇について知りたい!」と情報を求める人と、
それに対しての情報を提供する人、という関係ですね。

基本的に、ダイビングって、指導団体・プロを頂点として、
ベテランダイバー~ビギナーダイバーと広がっていくピラミッド状の構図の中で、
それぞれの間で情報の格差も大きいレジャーだと思います。

昔から、ダイバーが最も多く(かつ切実に)必要としてる情報って、スキル面の悩みだと思います。
古くは、田原浩一さんのオタハラ部長、最近では和尚(寺山さん)のスキルアップ寺子屋が、
その駆け込み寺的な役割を果たされてきています。

スキルの悩みは、本来的に言えば、
身近なインストラクターが海やプールで一緒に潜りながら、教え・指導してあげるのが一番ではあります。

けれど残念ながら全てがそういう恵まれた環境にいるダイバーでもないわけで…。
(ほんとは"恵まれた"じゃなくて、"当たり前"のことだと思うんですが)

そういう意味で、そういった駆け込み寺的なモノがメディアの中にあるということは、
すごく貴重なことだと思います。

それがかつては雑誌・本というメディアだったのが、
次第にWebの中にシフトしてきている、と。

そこで最近は、スキル面以外でも、いろんな情報交換を求めるニーズが増えてきています。

「あそこのポイントって、どうなの?」
「今度、沖縄に行くんですけれど、オススメのショップやポイントはありますか?」
「福岡でCカードをとりたいんですが、どこがいいですか?」

などなど、具体的に挙げればキリがありません。

そういう会話は、潜ログ以前からmixiや個人のブログでもされてきていました。

ただ、ここでやっぱり、
「ダイビングのクチコミって、家電やレストランのクチコミとはちょっと性質が違うよなあ」
と思うのです。

まず、ダイビング器材というのは、
個人の体型から、さらには生来もっている身体バランスが密接に関わってきます。

「私はコレを使ってるから、あなたにもオススメです」
とはなかなか言えませんし、相手のことをちゃんと考えたら気軽に言ってはいけないものだとも思います。
(だからこそ、ちゃんと見てあげるインストラクターが必要なんだと思います)

そして、肝心のダイビング自体(潜るという行為、そしてガイドしてもらうというサービス)。
これも同様です。

Aさんがある日に体験するダイビングは、
その海況・そのメンバー・そのガイドさんだから体験した唯一無二のもので、
それを第三者に情報として"そのまま"差し出すことはちょっと無責任といいますか…。

「その人がその日に体験したダイビングはその日だけのものである」ということを、
情報を提供する人が自覚していないといけないんですよね。

そこから、第三者にとって客観的かつ有益な情報を与えるには、
「その日のダイビング」から、
「その海・サービス・ガイドさんの中の不変的な要素」を抽出しないといけないと思います。
つまり、状況によって変化する部分じゃなくて、いつ・誰に対しても変わらない要素、です。

ダイビングというものを俯瞰して見ることのできる知識・スキル・経験を備えている人であれば、
クチコミも成り立つでしょうし、その情報は公平で有益だと思います。

ただ、例えばmixiコミュニティとかで「教えてください!」的なやりとりを見ていると、
数十本ぐらいの経験の方が何かしらの結論を断言されていたりして。

それはちょっと無責任ではないか、と思うんですよねえ。
情報を受け取る側は、もちろんダイビングというものの性質をまだ詳しく知らず、
それを鵜呑みにするしかない、という状況になってしまいます。

強いて言えば、ショップやガイドさんの雰囲気・接客態度・物腰などなら、
まだ情報としての信憑性が高い、かもしれません。
そういった部分は、誰でも平等に感じられる部分ですので。

ただ、基本的にダイビングのクチコミというのは、
それを提供する側にもけっこうな知識・スキル・経験が求められるものだと思います。
価格.comや食べログは、そこに集まるクチコミが"使える"ものだから大きくなったのでしょうが、
その点で、ダイビングにおけるクチコミサイトは普及しにくいんじゃないかな、と。

なお、ここでは「ダイビングのクチコミを必要とする人」のイメージを、少しビギナー寄りに想定しています。
上で書いた"ピラミッド状の構造"で言えば、一番情報が少なくて、かつ一番ボリュームの多い層です。
やっぱり、クチコミ文化としては、その層にとって有益でないと成り立たないと思うからです。

ちょっと余談ですが、潜ログで「上手いなあ」と思ったのは、
アフターダイブのクチコミを取り入れていること。
海の近くの食事とか、宿泊とかです。
実際、(もしかしたらダイビング以上に)食事や宿のクチコミは多いんですよね。
やっぱり、書く側もそっちの方が書きやすいんだと思います。

人生の中で、ダイビングは多くても数百回しかしていないかもしれませんが、
食事や睡眠は何万回とこなしていることですもんね。

そして、最後に強調しておきたいのが、
やっぱりダイビングで一番大切なのは安全性だということ。
安全だからこそ、楽しさが生まれるわけで。

この安全性を確保するために、ショップ・ガイドさんたちは日々さまざまな努力をされています。

けれど、その「努力」って、ほんの小さな気遣いとか"コツ"みたいな部分も多くて、
そこはダイブマスター・インストラクターレベルじゃないと気がつかないと思うんですよね…。

僕はダイビングショップ・サービスに一番大切なのはそこだと思っていますので、
それ故に、そこをまず正当に見てあげたい、という気持ちが強いです。

レストランの料理が美味しくなかったからといって、
それは生命の危機にはすぐに結びつきませんが、
ダイビングでの安全管理はやっぱり命に関わるものですから。

以上が、僕か